2014年7月30日水曜日

英文契約書サンプルの入手方法

私が翻訳業に従事している時からの原則ですが、
何かを翻訳する場合には、
まず最初に実際に使用されている例を見つけます。

主にはgoogle検索ですが、
google検索は当然、
インターネット全体を対象としますので、
探している種類の英文契約書をピンポイントで見つけることは、
なかなか難しいですし、
英語を母国語としている国以外の英文契約書も多数ヒットしてしまいます。

私は、
「Business-in-a-Box」という英文契約書サンプル書式ソフトも使っていますが、
これが本当に酷い文例の書式ばかりで、
あまり使う気になれません。
英語ネイティブも、こんなに酷い文例を使用しているのだという、
ある種の安心感は得られて良いのですが。

そこで、
より実践的なのは、
米国の企業その他法人がSEC(Securities and Exchange Commission:米国証券取引委員会)に提出することを義務付けられている「すべての重要な契約書」(all material contracts)を、
SECのEDGARシステム(the Electronic Data Gathering, Analysis, and Retrieval system)で検索することです。
http://www.sec.gov/edgar.shtml

しかし、
このサイトそのものから、
探している種類の英文契約書を検索することは難しいため、
工夫が必要になります。

「Adams ON CONTRACT DRAFTING」でも、
2006年12月14日付の記事、
http://www.adamsdrafting.com/retrieving-and-using-contracts-filed-with-the-sec/
2013年5月日付の記事、
http://www.adamsdrafting.com/lawinsiderdocom-a-new-database-of-edgar-contracts/
2014年7月23日付の記事、
http://www.adamsdrafting.com/an-update-on-retrieving-contracts-from-the-secs-edgar-system/
で、説明しています。

記事では、
おなじみのLexisとWestlawに加えて、
以下の3つの無料サイトが紹介されています。

LawInsider.com
http://www.lawinsider.com/
findlaw.com
http://corporate.findlaw.com/contracts/
onecle.com
http://www.onecle.com/

この中では「LawInsider.com」が一番使いやすいので、
私は主にこれを使っています。

2014年7月24日木曜日

現在形 or 現在完了形 or else

「Adams ON CONTRACT DRAFTING」の2014年7月23日付の記事として、
「Getting Right the Temporal Aspect of Adjective Clauses」
(形容詞節内の時間相を正しく使用する)
が掲載されていました。
http://www.adamsdrafting.com/getting-right-the-temporal-aspect-of-adjective-clauses/

「形容詞節」(Adjective Clauses)とは、
いわゆる「従属節」(subordinate clause)の一種類で、
「時間相」(Temporal Aspect)とは、
最近ではカタカナでそのまま「アスペクト」と呼ぶことが多いですが、
「進行形」「完了形」などの「相」(aspect)です。

記事には3つ例文が挙げられていて、
まず、
①「Acme shall reimburse the Vendor for reasonable expenses that the Vendor incurs in connection with manufacture of the Units being cancelled.」
は、キャンセル後に発生した合理的費用のみ補償すると解釈される可能性があり、
次に、
②「Acme shall reimburse the Vendor for reasonable expenses that the Vendor has incurred in connection with manufacture of the Units being cancelled.」
は、キャンセル前に発生した合理的費用のみ補償すると解釈される可能性があるため、
③「Acme shall reimburse the Vendor for reasonable expenses that the Vendor incurs before and after cancellation in connection with manufacture of the Units being cancelled.」
とするのが良いと書かれていました。

私の場合、
そこまで「アスペクト」による影響を深く考えないで、
起案する場合には単純に①としていましたので、
今後はAdams氏に倣って、
より明確&具体的な文章で起案しようと思います。

2014年7月23日水曜日

無料webcast

「Adams ON CONTRACT DRAFTING」のAdams氏が、
West LegalEdcenterのために2012年に作成したNDAに関するwebcastを、
youtube上で無料公開しています。
http://www.youtube.com/watch?v=dxToNUZxWzY&feature=youtu.be

PowerPoint資料はこちら。
http://www.adamsdrafting.com/wp/wp-content/uploads/2014/07/Drafting-and-Reviewing-Confid-Ags-2012.pptx

仕事の内容とはいえ、
職場でyoutubeを観るのは躊躇われるので、
自宅で観てみます。

2014年7月17日木曜日

「Efforts」と「Endeavours」

「Adams ON CONTRACT DRAFTING」の2014年7月16日付の記事に、
「イングランドの弁護士」も「Endeavours」ではなく「Efforts」を使うべきだと、
書かれていました。
http://www.adamsdrafting.com/english-contract-drafters-should-consider-using-efforts-instead-of-endeavours/

Adams氏にしては非常に穏やかな表現を使っていますが、
実にアメリカ人らしい発言だなあと感じました。

イングランドの弁護士にしてみると、
「お前にそんなことを言われる筋合いはない」となりそうですが、
だからこそ、
全世界的に読み易い英文契約書を目指すAdams氏の活動の価値は、
極めて高いと個人的に考えています。

ところで、
Adams氏はその論拠として、
Googleの「Ngram」(Google Booksをコーパスとするデータベース) を使って、
「Efforts」と「Endeavours」の、
1800年から2000年までの使用頻度の推移を表にして掲載しています。

ちなみに、
Adams氏自身は普段から、
新聞・ニュースではまず出てこないような語彙を多用しています。
法律家というよりは語学屋であるILTにとってはとても参考になるのですが、
この記事への読者コメントで、
Adams氏の友人であるChris Lemens氏が
同じく「Ngram」を使って、
Adams氏が記事に使っていた「loathsome」「derangement」「evidently」という3つの単語の、
1800年から2000年までの使用頻度の推移を表にして掲載すると共に、
「Physician, heal thy archaisms!」
とありました(笑)。

これは、
新約聖書のLuke 4:23に出てくる、
Physician, heal thyself」をもじったもので、
「医者の不養生」というような意味の諺として使われています。

これに対するAdams氏のコメントも、
「私はNgramを、各表現の相対的な使用頻度を示すために使ったのであって、
 誰かの評判を落とすためじゃない(笑)」
という、
実にAdams氏らしいコメントでした。
(そして、「a bunch of shambling semiliterates」という表現も、実にAdams氏らしい表現です)


しかし、
Googleの「Ngram」でのグラフの作成方法がよく理解できません。
職場のPCにかかっている規制のせいかもしれないので、
自宅のPCで試してみるつもりです。


2014年7月9日水曜日

「両者協議の上、~を決定するものとする」

営業担当者からリクエストが(ダントツで)最も多い、
他社の契約書(案)に対する修正(=追加)文言です。

そもそも契約書を締結する目的を、
(=問題が発生した場合の具体的対応を事前に合意しておく)
真正面から否定するような文言で、
特に英文契約書を扱う法務担当者にとっては、
抵抗を感じる文言ですが、
営業担当者からリクエストされる以上、
追加せざるをえません。

また、
契約書の文言を合意する際には、
その文言の法的有効性よりも、
問題発生時に相手から無茶なことを言われないようにという、
法的有効性以前の牽制目的が重要なので、
「問題発生後に、両者協議の上、対応を決定するものとする」
という文言は、
とても意味があると思います。

以下、例文です。
「, on condition that the parties discuss and agree to the compensation that Seller will provide to Buyer after the cause of the compensation occurs, considering Seller's responsibility for the cause, the circumstances where the cause occurs, and any other related matters.」

日々、こういう文章ばかり書いていると、
普段の発言も言い訳がましくなりそうで心配です。

契約書『Document Asasembly』システム

Kenneth Adams氏がchief content advisorを務める、
『ContractExpress』という契約書『Document Asasembly』システムのウェブサイトに、
7/7(月)付けで、
契約書『Document Asasembly』システムの導入全般に関する記事が掲載されていました。
http://www.business-integrity.com/blog/2014/07/the-challenges-of-document-assembly-and-how-to-overcome-them/

Q&A形式の契約書『Document Asasembly』システムは、
ILTが契約書『翻訳システム』と共に、
近い将来、
導入したいと考えているものです。

『ContractExpress』の価格と機能次第ですが、
今年度は契約書文言の整備に傾注して、
来年度の(自腹での)導入を考えています。

しかし、もしかしたら、
『翻訳システム』の方が、
先に導入できるかもしれません。

ある法務専門翻訳家から、
『Felix』という翻訳メモリーツールを紹介され、
http://jp.felix-cat.com/
このメモリが、
リモートで作業するのに非常に便利とのことで、
来年年明けからの(もちろん自腹での)導入を考えています。

さらに将来的には、
一企業に限らず、
複数の日本企業を対象に上記サービスを提供できるようになれば、
日本企業全般の国際競争力の底上げに、
ささやかながら貢献できるのではないかと目論んでいます。

2014年7月4日金曜日

「provided, however, that」撲滅運動

「provided, however, that」は、
いわゆる『但し書き条項』の決まり文句として、
やたらと頻用されている表現ですが、
少しでもまともに考えたことがある人ならお気付きでしょうが、
非常に曖昧な表現です。

当然ながら、
Kenneth Adams氏の「A Manual of Style for Contract Drafting 第3版」でも取り上げられていて、
326~327ページで説明されています。
そこでKenneth Adams氏は、
「provided, however, that」で表現される内容を、
以下のように4つの種類に分類して、
それぞれの言い換え文言例を紹介しています。

① 例外(Exception)
   言い換え文言例:「except that」

② 制限(Limitation)
   言い換え文言例:「and in any event」 


③ 条件(Condition)
   言い換え文言例:「on condition that」

④ 追加(Addition)
   言い換え文言例:「and」

私の経験では、
ダントツで使用頻度が高いのが③条件(Condition)で、
次に使用頻度が高いのが①例外(Exception)です。

私は、
英文契約書を読んでいて「provided, however, that」に出くわすと、
相手の契約担当者の英語力(というよりも物事を明確に思考&表現する能力)に不安を感じ、
憂鬱になります。

そういうわけで、
私は日々コツコツと、
「provided, however, that」撲滅運動に努めているわけです。


(2017年10月31日追記)
本日珍しく、
②制限(Limitation)を使う必要がありましたが、
Kenneth Adams氏が推奨する「and in any event」を使うには、
・「制限された内容」and in any event「より制限された内容」
という文章構造でないと、おかしくなる気がします。


今回は、
「制限されていない内容」と「制限された内容」を繋ぐ必要がありましたので、
時間がなかったこともあり、
とりあえず「provided, however, that」を使いました(苦笑)。


今回のような文章構造の場合、
どのような繋ぎ表現がよりベターなのか、
もう少し考えてみます。


まあ、
「制限されていない内容」と「制限された内容」を繋いだ文章を使わない、
というだけのことかもしれませんが。

2014年7月3日木曜日

完全合意条項(entire agreement clause)

完全合意条項(entire agreement clause)とは、
英文契約書に特徴的な条項の1つで、
ざっくり言うと、
「この契約以前の合意は書面・口頭を問わず全部無効」とするための条項です。

「integration clause」や「merger clause」とも呼ばれるそうでうが、
実際の英文契約書で「entire agreement 」以外の表現を見たことはありません。

典型的な文言は、
「This agreement supersedes any prior or contemporaneous written or oral agreements between the parties with respect to the subject matter of this agreement.」
というもので、
「過去または同時の...合意よりも優先」という形で「以前」を表現します。
(「contemporaneous」という単語は、日常会話ではあまり使いませんよね)

ここで生じてくるのが、
いわゆる「約款」(=一方の当事者が一方的に押し付ける条件)の効力も排除したいと思う時に、
どう書くのが適切かという問題です。

私の会社の雛型文言ではざっくりと、
「This agreement supersedes all other agreements, whether written or oral, between the parties.」
として、
とにかくすべての合意に優先する、
と規定しています。

ちなみに、
私の会社の雛型文言ではこの直後に「変更条項」が来て、
「No amendment to this agreement will be effective unless it is in writing and signed by both parties.」
と、将来的な両者の署名合意は有効としています。

もっとも、どう規定していても・いなくても、
将来的な両者の署名合意が(裁判所などに)無効と判断される可能性は極めて低いとは思いますが。

この2つの条項で、
「約款」は十分に排除できると思いますが、
規定が具体的なほど、
その有効性を否定されるリスクが小さくなることも事実です。

以下は、いわゆる「シュリンク・ラップ約款」などを排除する文例ですが、
「Adams ON CONTRACT DRAFTING」の2014年7月2日付の記事のコメント欄に、
常連さんの一人であるVanceさんがアップしていたものです。
http://www.adamsdrafting.com/when-entire-agreement-provisions-and-click-wraps-or-browse-wraps-collide/

「This agreement supersedes any prior or contemporaneous written or oral agreements or communications between the parties. It may not be modified except in a writing signed by both parties. No "click-through," "shrink-wrap," "browse-wrap" or similar terms that have not been specifically negotiated by the parties, whether before, on, or after the date of this agreement, will be effective to add to or modify the terms of this agreement, regardless of any party's "acceptance" of those terms by electronic means.」

なるほど、
ここまで具体的に書けば、
有効性を否定されるリスクは極めて小さそうですね。

2014年7月1日火曜日

米国連邦最高裁判所2013-2014年開廷期の主な判例

恒例のThe New York Times紙によるまとめ記事です。

『Key Supreme Court Decisions in 2014』
http://www.nytimes.com/interactive/2014/06/19/us/major-supreme-court-decisions-in-2014.html

いずれも極めて興味深い判例ですが、
個人的には、
政教分離を定めた米国憲法修正第1条に関する、Town of Greece v. Galloway
affirmative actionに関する、Schuette v. BAMN
が、特に興味深かったです。