2014年4月16日水曜日

「通常損害」としての「逸失利益」

法律文書の翻訳を専門にしていた時からの長年の疑問に、
各種損害カテゴリーの射程・範囲というものがあります。

一度、ロースクールで「契約法」の授業を受講して、
体系的かつ大量にリーディング・ケースを読み込まないと、
本当の意味では理解できないだろうとは思っていますが、
なかなか踏み切れないまま今に至ります。

しかし、
確実に上記を経由しているはずの複数の米国法弁護士に質問しても、
その説明は曖昧に感じます。
私の理解が足りなくて曖昧に感じるのか、
実際に曖昧なのか、
おそらく両方なのでしょう。
今回の投稿は後者に該当する話です。


私が毎朝欠かさず読んでいる法務系ブログに、
「Adams ON CONTRACT DRAFTING」があります。
 http://www.adamsdrafting.com/

2014年4月15日の記事に、
裁判所で「逸失利益」 が「通常損害」と判断されたケースが紹介されていました。
http://www.adamsdrafting.com/referring-to-lost-profits-in-limiting-liability-provisions/

Adams氏は、
著書である「A Manual of Style for Contract Drafting 第3版」(以下、MSCD)で、
4つの理由を挙げて、
「責任の制限」条項において、
「付随的損害」(incidental damages)
「結果的損害」(consequential damages)
「特別損害」(special damages)
「間接損害」(indirect damages)
といった損害カテゴリーを排除することは役に立たないので、
「逸失利益」(lost profits)など、
より具体的な損害の種類を排除するようにと助言していました。
(MSCD 13.123)

しかし今回、
NY州の最高裁判所である「Court of Appeals」(上訴裁判所)で、
下級裁判所である「Supreme Court」(高位裁判所)の判決を覆す形で、
「逸失利益」 を「通常損害」(general damages)と判断する判決が出ました。
ただし、4対3のギリギリでの判決です。
http://www.adamsdrafting.com/wp/wp-content/uploads/2014/04/Biotronik-AG-v-Conor-Medsystems-Ireland-Ltd.pdf
(余談ですが、NY州では「Supreme Court」が下級裁判所で、「Court of Appeals」が最高裁判所と、他州と逆になっています。ややこしいですね。)

そこでAdams氏は、
一般的に「結果的損害」(consequential damages)と考えられていた「逸失利益」(lost profits)ですら、
「通常損害」(general damages)と判断される危険性があるため、
(判決文には、「逸失利益」は従来から、「通常損害」と判断される場合も、「結果的損害」と判断される場合もあったと書いています。おそらく、そうなのでしょう。)
損害賠償の範囲を制限するためには、
「損害金額の上限」(a cap)を明確に規定しておくのが良いと結論付けています。

言うは易し、行うは難し、ですけどね、、、
ILTがこれまで扱った案件で、
合理的な金額で「損害金額の上限」(a cap)を設定できたことはないです。
設定しなくても同じという天文学的数字しか設定させてくれません、、、


ちなみにAdams氏は、
「特別損害」(special damages)は、
「結果的損害」(consequential damages)と同義と、
MSCDに書いていて、
(本ケースの判決文にもそう書いてあります)
「通常損害」(general damages)は、
「直接損害」(direct damages)と同義と、
この記事に書いています。

しかし、
私の理解では、
「直接損害」(direct damages)の反対概念である、
「間接損害」(indirect damages)は、
「結果的損害」(consequential damages)よりも広い概念で、
従って、
「結果的損害」(consequential damages)と「特別損害」(special damages)が同義とするなら、
「間接損害」(indirect damages)は、
「特別損害」(special damages)よりも広い概念ということになり、
「通常損害」と「特別損害」との対比関係と、
「直接損害」と「間接損害」との対比関係との、
各対比関係の相違が、
良くわからなくなります。

ちなみに今回の判決文には、
(おそらくどの契約法の教科書にも同じようなことが書いてあると思いますが)
「通常損害」(general damages)は、
「are the natural and probable consequence of the breach of a contract」であり、
「特別損害」(special damages)は、
「do not directly flow from the breach」であると書かれています。

おそらく損害の範囲は、
「直接損害」(direct damages)と「間接損害」(indirect damages)とにMECEで二分できるけれど、
「通常損害」(general damages)と「特別損害」(special damages)とにMECEで二分できるものではなく、
それ以外の損害も存在するということかもしれません。
(ex.「付随的損害」(incidental damages)、「懲罰的損害」(punitive damages)、「名目的損害」(nominal damages)など。しかし、「懲罰的損害」と「名目的損害」とは「契約法上の損害」とは言えないので、どう扱うのが正しいのか疑問ですね。)

換言すると、
「通常損害」(general damages)=「直接損害」(direct damages)
「特別損害」(special damages)=「結果的損害」(consequential damages)
だけれど、
「通常損害」「直接損害」には、一部の「付随的損害」も含まれ、
「間接損害」には、「特別損害」「結果的損害」に加えて、一部の「付随的損害」、すべての「懲罰的損害」、さらには「名目的損害」も含まれる、
ということかもしれません。
それとも、一部の「付随的損害」は、「特別損害」「結果的損害」に含まれるのかもしれません。

おそらく、
「通常損害」と「特別損害」は、「契約法上の損害概念」だと思うのですが、
「間接損害」は、「(不法行為法など)契約法の範囲を超えた損害概念」である、
ということかもしれません。

それとは別に、
「特別損害」は、「結果的損害」と「付随的損害」を合わせた概念という説明と、
「特別損害」は、「結果的損害」と同義だという説明とが、
いろいろなところで併存しているように思えます。

う~ん、混乱してきました。
(正しくは、長年混乱しています)

損害の概念が完全に理解できるまで、まだまだ先は長いようです。

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