2015年5月29日金曜日

「過収金」の法定時効@米国法

米国法で、
取引先が請求額よりも多く支払ってきた「過収金」の消滅時効が分かりません。

日本法であればおそらく、
不当利得の返還請求権は商人間であっても、
商行為による債権として商事時効(商法522条により「5年」)を適用する事はできず、
民法167条により「10年」で、
起算点は「過払いした時点」と思われます。

これが「5年」か「10年」かは、
弁護士ですら怪しいようですが。
http://www.bengo4.com/saiban/1137/b_183016/

もっとも、
いろいろ調べてみると、
おそらく「10年」と思われます。
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/12-4/matsumoto.pdf

しかし、
「商品代金の精算」ということになると、
判例の趣旨からも「5年」になるかもしれません。

いやあ、分からない(苦笑)。

いずれにせよ、
これが米国法になると、
どうにも検索できないのです。

いえ、
実を言うと、
日本法でも検索できません。
「商品代金を余分に払ってしまった場合における、不当利得の返還請求権の消滅時効」
なんていうことをウェブ検索しようとしても、
いわゆる「サラ金」の「過払い訴訟」や、
未払いの商品代金(=買掛金)の消滅時効などはいくらでもヒットしますが、
得たい情報は得られないのです。

たまに、
法律Q&Aサイトで、
「家賃の過払い」や「駐車場代金の過払い」の質問があっても、
回答している人たちは、
「不当利得」という法的概念さえ知らない人たちばかりで、
何の参考にもなりません。

ちなみに、
「不当利得」「時効」「商事」で検索すると、
昭和55年1月24日の最高裁判所判決についてばかりヒットして、
(サラ金に対する過払金返還請求権の消滅時効期間が「10年」という判例です)
これもあまり参考になりません。

したがって、
米国法について上記の内容を検索できないのは、
当然かもしれません。
母国語である日本語でもできないのですから。

まず、
「過収金」=「過払い」は、
英語では「mistaken payment」と思われます。
そして、
「時効」は、
英語では「statute of limitation」(より正確には「出訴期限」)と言います。

他方当事者の詐欺などがなく、
単純な間違いの場合には、
(そもそもそうでなければ「mistaken payment」とは言えないでしょうが)
「mistaken payment」は「unjust enrighment」(不当利得)の一種であり、
「restitution of unjust enrighment」(不当利得の返還)の問題となります。

gilbertの「Remedies」(救済法)によると、
「Because a mistake is not a tort, the only remedy available necessarily is restitutional.」(273ページ)
とのことです。
同書には、
「Overpayment of money」(274ページ)
という項目もありますが、
「statute of limitation」と絡めては説明されていません。

やはり、
「米国民事訴訟法」のテキストを読む必要があるのかもしれません。
もっとも、
「アメリカ民事手続法」(浅香吉幹・著)には、
当然のように「statute of limitation」の説明はないため、
いわゆる法学のテキストよりも、
「1人でできる少額訴訟@カリフォルニア」みたいな、
ハウツー本を読んだ方が良いのかもしれません。
というわけで、
The Complete Idiot's Guide to Lawsuits
http://www.amazon.com/Complete-Idiots-Guide-Lawsuits-ebook/dp/B00AR19KDK/ref=sr_1_2?ie=UTF8&qid=1432885647&sr=8-2&keywords=Litigation+For+Dummies
という本をサンプルで入手してみましたが、
残念ながら、
目次を読む限り、
裁判システムの概略を説明している感じで、
具体例と具体的ポイントが書かれている感じではないです。

いつも思うことですが、
日本の書籍の実用性というか、
個別具体性は凄いと思います。

ちなみに、
「mistake」(錯誤)は、
「mistake of fact」(事実の錯誤)と「mistake of law」(法律の錯誤)の2種類に分類されます。
また、
同じ「mistake of fact」(事実の錯誤)と「mistake of law」(法律の錯誤)であっても、
民事法と刑事法では扱いが異なるようです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mistake_(contract_law)

いずれにせよ、
「mistaken payment」と「statute of limitation」で簡単に検索できそうなものですが、
これがどうにも検索できないのです。

おそらく、
LexisかWestlawなら簡単に検索できるのでしょうが、
普通のウェブ検索ではどうにも検索できません。

そしてなぜか、
40年以上前のマサチューセッツ州の判例がヒットしたりします。
http://masscases.com/cases/sjc/363/363mass112.html

The statute of limitations on an action for recovery of money paid by mistake, despite the action's antecedents in equity, begins to run when the money was paid rather than when the mistake was discovered.

やはり、
40年以上前のネブラスカ州の判例も。
http://law.justia.com/cases/nebraska/supreme-court/1974/39012-1.html

The stipulation of facts establishes several points which narrow the scope of the question involved, namely: (1) The overpayment by plaintiff was made solely due to plaintiff's own mistake and lack of care; (2) the defendant hospital made no misrepresentation to induce the overpayment; (3) defendant acted in good faith without prior knowledge of the mistake in receiving the overpayment; and (4) there is no evidence that defendant, in reliance upon the mistaken payment, changed its position to its detriment.

そして、
検索すればするほど、
誰もが「Restitution and Unjust Enrichment」は難しい、
と書いています。

いや、
難しい法理はとりあえず置いておいて、
私が知りたいのは単純に「時効の期間」と「起算点」だけなんだけど、
と思うのですが、
どうにも突き止められません。

私には、
米国法について、
何か根本的な知識が欠けているように思えます。

もっとも、
↓このペーパーによると、
http://www.law.virginia.edu/pdf/faculty/hein/laycock/110michlrev929.pdf
1960年頃から「Damages」「Equity」「Restitution」を統合した現代的な「Remedies」(救済法)の授業コースが広まって以来、
「Restitution」(返還法理)の授業コースがなくなり、
その過程で「restitutionary causes of action」(返還法理による訴訟原因)についての理解が抜け落ちてしまっている、
とのことなので、
私が検索できないのも仕方がないのかもしれません。

理想的には、
「THE RESTATEMENT (THIRD) OF RESTITUTION & UNJUST ENRICHMENT」の本文&解説書を購入できれば良いのですが、
何百ドルもするので、
とりあえず、
Restitution: Civil Liability for Unjust Enrichment
というペーパーバックを購入しました。
http://www.amazon.co.jp/Restitution-Civil-Liability-Unjust-Enrichment/dp/022614416X/ref=tmm_pap_title_0?ie=UTF8&qid=1432880289&sr=1-1-catcorr

2015年5月26日火曜日

BLJ2015年5月号『国際動産売買契約における瑕疵担保・紛争解決条項の留意点』

改めて読み直してみましたが、
コンパクトに良くまとまっている記事で、
とても参考になります。

最初に読んだ時の感想を見直してみたところ、
「特に、
青山大樹弁護士の記事は、
期待が大きかっただけに、
落胆も大きかったです。
もっとも、
CISGに馴染みのない人にとっては、
参考になる内容だろうと思います。」
という辛口の感想でしたが(苦笑)。

内容は、極々基本的な内容ですが、
現行民・商法、改正民法案、CISGを比較している記事はなかなかないですし、
また、
日本法における英文条項の有効性という問題意識を、
おそらく誰よりも持っている青山弁護士による記事ですので、
参考英文も(文字通り)参考になります。

それが法務担当者がよく読むBLJの記事だということで、
他社の法務担当者との議論の土台としても使えると思います。

但し、
「紛争解決条項」 の部分は、
紙面を埋める目的だったのでは?
と思えるほど薄い内容で、
記事のインパクト&役目を考えると、
「瑕疵担保条項」に集中して欲しかったと思います。

青山弁護士による、
『条文から分かる 民法改正の要点と企業法務への影響』も、
amazonで予約しました。
(追記:素晴らしい内容の本でした)

今後も、
青山弁護士による記事&書籍は、
すべてチェックしていこうと思います。
できれば、
『日本法における英文条項の有効性』で、
一冊出して欲しいと思います。
(追記:現在、その点への問題意識は薄くなっているようです)

マメに本人に感想をメールで送っておくと、
今後に繋がって良いかもしれません。

2015年5月25日月曜日

法務担当者への英語教育

先日、
英文契約書の打ち合わせをした某社の法務担当者による英文の変更案を見て、
英文契約書への対応を仕事として任されている人でも、
「主語+動詞」という英文構造が叩き込まれていないという事実に、
どうしたものかなと、
改めてモヤモヤしています。

これまでの法務担当者としての経験と、
さらにはその前の英語教師としての経験から、
ほとんどの日本人ビジネスパーソンの人の頭の中に、
「主語+動詞」という英文構造が叩き込まれていないという事実は認識していましたが、
英文契約書を担当する人でもそうかと。

これはおそらく、
結局のところ、
英語を使ったアウトプットの問題だと思います。

例えどれだけの量の英語をインプットしていたとしても、
英語を使ったアウトプットをして、
そのアウトプットの適切さを検証するというステップを経ない限り、
正確な英文構造(syntax)を脳のシナプスに焼き付けることはできないのだと思います。

したがって、
英語を習得するためには、
アウトプットの適切さを検証するというステップを、
どうやって実現するかというのが、
最も重要となります。

当然、一番簡単なのは、
他人にチェックしてもらうことですが、
そのためには、
①謙虚な姿勢を取る
②お金を払う
のどちらかが必要となると思います。

もちろん、
両方するのがベストですが、
ほとんどの人は、
両方ともしないために、
いつまで経っても実現しないことになります。

おそらく同じことが、
英語以外のことにも言えると思います。

「人の振り見て我が振り直せ」
というやつですね。

(追記)
今、イシグロ・カズオの最新作『The Buried Giant』を読んでいるのですが、これが難しい。
彼は、シンプルだけれど凝った文体(正確には、作品に合った文体)で書く上に、
正統的な小説家らしく、
新聞記事などでは絶対に見ないような単語&表現を多用します。

前作『Never Let Me Go』は、近未来的なSF小説ということで、
極めて読み易かったのですが、、、

久し振りに、
辞書を引かないとストーリー展開が正確に理解できない、
という状況に陥っています。

私の英語力も、まだまだだと実感しています。

2015年5月22日金曜日

英訳のフラストレーション

日本語と英語の文章構造の違いから、
英語から日本語に翻訳するのは、
それほど抵抗を感じないのですが、
日本語から英語に翻訳するのは、
大きな抵抗を感じます。

それは、
日本語から英語に翻訳する作業には、
非常に大きなフラストレーションを伴うからです。

それを生業としている外国人翻訳者は、
本当に凄いと思います。
その忍耐力を尊敬します。

何よりもフラストレーションを感じることは、
そのフラストレーションの大きさを、
ほとんどの人に理解してもらえないことです。

理由は、
ほとんどの日本人の頭の中には、
英文の構造が叩き込まれていないために、
適格な英文を作成する時に、
どのような情報が必要なのかが分からないからです。

自分でも英文を書けるけれど、
時間がない/効率が悪いから、
他の人に頼む、
という場合であれば、
お互いにフラストレーションが発生する危険性は低くなりますが、
そのような例外的な場合を除いては、
こちらは「どうしてそんな情報も書いてないんだ」と、
相手は「どうしてそんな情報をいちいち求めるんだ」と、
お互いにフラストレーションを感じることになります。

難解な単語・表現や、難解な文法規則を教える/覚える時間と労力があるなら、
基本的な英文構造と、そこに必要とされる情報とを、
徹底的に叩き込むことに回すことができれば、
日本人の英語レベルは格段に向上すると思います。

難解な単語・表現なんて、
必要になった時に覚えれば良いだけです。

振り返ると、
大学時代の塾講師の頃から、
同じ気持ちを抱えています。

あれから20年、
状況がまったく変わっていないことに愕然としますが、
日常的に英語を使う必要がある日本人の数が、
20年前からそれほど増えていない以上、
状況がまったく変わっていないことは当然であって、
驚くべきことではないのでしょう。

2015年5月18日月曜日

「explicitly permit」

某米国企業から、
某日本企業経由で要請されているEAR遵守の誓約書の最重要ポイントとして、
EARが「explicitly permit」している場合を除いては再輸出不可、
という規定がありました。

ここで、
「explicitly permit」とは、
具体的に何を意味するのかと、
悩んでしまいました。

法律用語ではなく、
日常的な英語として、
「explicitly permit」を捉えれば、
「clearly allow」と同義として、
「法令上、明らかに許される範囲で」と解釈でき、
遵守は問題ない、少なくともEARそのものの遵守と同じと考えられるでしょうが、
もし、
「法令が文言で、具体的に許可している範囲で」との解釈を求められると、
EARそのものの遵守よりも、
誓約書の遵守が難しくなります。

結論としては、
EARを遵守していれば、
誓約書の文言がどのように解釈できるにせよ、
問題は発生しようがなく、
逆に、
EARに違反すれば、
誓約書の文言がどのように解釈できるにせよ、
会社に与えられる罰則は同じと考え、
提出することにしました。

こういう時に、
一人でいいから英語のネイティブスピーカーが会社にいると、
便利だろうなあと思います。