2018年11月28日水曜日

『考えてるつもり ―「状況」に流されまくる人たちの心理学』サム・サマーズ著(ダイヤモンド社)

『考えてるつもり ―「状況」に流されまくる人たちの心理学』サム・サマーズ著(ダイヤモンド社)

 著者は、米国タフツ大学で教鞭を取る、特に人種的偏見・ステレオタイプの研究で知られる社会心理学者です。専門家として、陪審裁判で発言を求められるケースも多いとのことです。
原書は2011年刊行、その翻訳である本書は2013年刊行で、それほど新しい本ではありませんが、最近、知人の(エクストリーム参加者ではなく)エクストリーム・スノーボーダーに薦められて読んでみました。
 英語の原題は『Situations Matter: Understanding How Context Transforms Your World』 (状況の重要性:文脈が物事の捉え方にいかに影響するかを理解する)で、「状況」に流されまくる人たちのトホホなエピソード満載、という本では全くなく、状況がいかに人の思考・言動に大きく影響するのかを、著名な理論・実験結果の紹介を中心に、説明している本です。

 例えば、被験者の大学生がスピーカーとして教室にスピーチしに行く途上、校内で何らかの理由で苦しんでいる人に遭遇した場合、どの程度の割合で助けるかは、その大学生の性格・属性などパーソナリティよりも、急いでいるなど、その時の状況の方がはるかに影響する、といった実験結果が紹介されています。なお、この実験の被験者は全員、神学部生で、スピーチは「善きサマリア人」についてだったりします。

 人は一般的に、よく知っている人の言動については、その人のパーソナリティよりも、状況に理由を求める傾向があるのに対して、知らない人の言動については、状況よりも、その人のパーソナリティに理由を求める傾向があるとのことです。特に、自分自身の言動については、「体調が悪かった」「急いでいた」「そんな雰囲気ではなかった」などと考えるのに対して、他人の言動については「使えない奴」「性格が悪い」「人間性を疑う」などと考える傾向があるということです。私個人については、全くその通りだと思います(苦笑)。

 このような例が多数紹介されており、それらの例を通じて状況・文脈が持つ大きな力を理解することで、いかに状況・文脈を適確に理解して、より効果的な言動を選択できるようになるか、というのが本書の目的です。

 著者は冒頭で「この本を読めばもっとよい人間になれます、ということではない」「けれど…もっと実生活にうまく対処できる「有能な」人間になれると約束しよう。」と書いています。「周囲の人がいろいろな状況に反応する、その方法をより正確に予測できるようになる」ことで、より効果的な言動を自分自身が選択できるようになれるということです。
 今、自分がどのような状況に置かれているのか、そこにはどのような文脈が働いているのかを適確に理解して、その状況・文脈において具体的にどのような言動を取ることがベターなのかを判断できることは、法務パーソンに限らず、あらゆるビジネスパーソンにとって極めて重要な能力でしょう。
 著者自身の細かなエピソードの紹介が多過ぎることもあり(よほど変わった人生を送っている人でもない限り、劇的なエピソードはそれほどないものです)、全体の構成に少しまとまりが欠けているように思える点が気になりましたが、自分なりに要点をまとめて理解していけば、職場&日常生活において、非常に役立つ本だと思います。

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